センパイ、今から寝取ります

 

 高校2年生、華のJKであり校内に知らぬものなき絶世の美少女である五十嵐小梅には野望がある。

 それは彼女に連なる最上級のプロフィールとは特別結びつかないもの。壮大とはほど遠い年相応の少女らしき淡き──否、10年もの間抱き続けた情熱的な恋心。幼馴染にして大好きなひとつ上の《センパイ》である少年、園田竹人の心を射止めることが、小梅が切望する唯一の未来である。

 とはいえ小梅は、それが近い将来手に入ることを確信していた。

 なんなら半ば既に目標を達成しているとすら思っていた。

 

「センパイっ。今日も一緒に帰りましょ」

「まったくセンパイったら、あたしがいないとほんとダメですよね〜」

「えーちょっとセンパイ! もっとゲームしましょうよー!」

 

 登下校を共にし。

 竹人の抜けた部分は甲斐甲斐しくフォロー。

 そして放課後は竹人の部屋に入り浸る。

 小梅のそんな俗に言う彼女ヅラムーブは中学入学以前から現在に至るまで継続しており、またこれからも続けていく腹積もりだった。

 この席を譲る気は毛頭なく。

 そんな隙はそもそも誰にも与えない。

 その割には直接的な言葉を伝えていない小梅だけれど、それは大した問題ではないと彼女自身は思っている。なにせ態度で明白なのだ。幼馴染という立場であれどあくまで異性。そんなつもりもない相手にここまでべったりくっついているワケがなく、そしてそれは向こうも分かっているはず。

 園田竹人はどこかぼんやりとしていて、けれど聡明な少年だ。他人の心の機微に敏感で、手を差し伸べてくれる優しさを持っている。

 彼に救われたからこそ今の小梅がある。

 だから好きになったのだ。

 10年間想い、慕っているのだ。

 小さな灯火はいまや抱えきれないほどに育っている。

 だから大丈夫。センパイはわかってくれている。

 早く言葉にしないといけないとは思うけど、ちょっぴり(正しくは滅茶苦茶)恥ずかしいからもう少し待っててね──常に自信に満ちているくせに、小梅は恋愛ごととなると途端に臆病に、そして浅慮になってしまう少女であった。

 

 ──しかし、女神は夢見る少女に微笑まない。

 

 小梅の考えは甘かった。

 彼女は満場一致の美少女であり、そして間違いなく竹人に最も近い異性。彼女自身の分析通りゴールに最も近かったのは小梅だ。それは疑う余地がない。

 だけれど、だからこそ。小梅はもっと早くに手を打っておくべきだった。

 彼を知っているからこそ、彼を慕う小梅であるからこそ──園田竹人の優しさはなにも小梅だけに適用されるモノではないということを、もっと強く、意識しなければならなかった。それを怠ることがどれほど致命的か、気付いて然るべきだった。

 恋は盲目などというけれど。それは恋愛という戦場に向かう前に真っ先に断ち切らなければならない幻想だ。自殺行為に等しい在り方だ。

 戦わなければ勝利はなく。

 奪えなければそれは敗北。

 現状維持などもってのほか。

 最後に立っているのはどこまでも貪欲な獣のみ。

 胸を焦がす恋情に浸る乙女に、そんな真理に気付けという方があるいは酷なのかもしれないけれど──。

 

 ──故に、小梅は直面する。

 受け入れ難い現実に。拒絶したい悪夢に。

 

「センパイっ! 今日も遊びにきまし──」

 

 バタンと開いた扉の向こうにいたのは2人。

 竹人と、見知らぬ金髪の──彼の同級生である少女、名を松浦千紗。

 2人が口付けを交わすシーンに居合わせた五十嵐小梅の転落と再起は、この日をキッカケに始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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